ゾンビーズ                         HBEロッカ                       


 外部スピーカーかヘッドホンで聞いてくんなまし。

 ノートパソコンのスピーカーだと、申し訳ない……。


『サーフライダー』と、『小野寺善行のブルース』

        HBEロッカバンド


        

 ちょっとニブイ時もあるから↑少しだけ待ってね。

 (カーソルを動かすと、すぐ出てきます。)



 しのつく雨の中、さほど寒くはない3月も終わりの陽気である。

 厚くたれこめた雲の空を、見上げる人も今日はまばらだ。


 原発事故も次第に落ち着いてきた様子で、最悪の事態は回避したらしい。

 放射性ヨウ素とかセシウムの飛び散った件で、農作物の販売を禁じられた農業

生産者の方々こそ、まことにお気の毒と言うべきだろう。







 3日ばかり微熱が続いて、おかゆを食べながらへたり込んでいたかと思ったら、

急に食欲が湧いてきた。

「おい、久々にジンギスカンが食いたい」

 と暴君のように言い放つ私に対して、

「急にどうしたの? また血糖値が上がるわよ」

 と妻が言った。

「わははは。昼下がりの血糖値」

 と訳の分からない駄ジャレを飛ばして、玄関で靴を履いた。


「そんな格好のまま何処行くの?」

 と叫ぶ妻を尻目に外へ出た。

 確かに人様が見たら異常に見えるだろう。

 無精髭も剃らずに、お気に入りのどてら姿のまま、自慢の兵隊靴を履き、飛び

出したのだから。

 だが、気分はすこぶる良かった。


 爽快と言うのじゃない。

 鈍さもここに極まれり。って感じで、自分がまるで無機物になったような心持

ちだ。


「こりゃ、木石って感じだな。何もかもフィルター越しのような……足の痺れも

……そりゃ酷いもんだが。そうだ! 全身、痺れっぱなしの感じじゃないか! 

だが動ける。何処も痛くも痒くもない」


 誰にともなく喋りながら、おかゆの間に食べたおじや≠思い出して、また

独り言を言った。

「ありゃ、ワンワンの飯だ」

 ワンワンという言葉がひたすら可笑しくなって、げらげら笑いながら通りへ出

たら車にはねられた。


 ──ゲゴン!


 という音を聞いた。

「ウン。やっぱり痛くない」

 自分の声を聞きながら気を失った。





 線香の匂いで目が覚めた。

 棺の中にいた。

 坊主のお経の声がする。

 してみれば、斎場の中に違いない。

 きっと伯母とその亭主が立て続けに死んだ時の、あそこの斎場だろう。

 私は生き返ったという事なのだ。

 幽体離脱もなかったし、三途の川を引き返した訳でもない。

 しかし、とにかく蘇生したって事だ。

「ウン。きっとよくある事なんだ。……と思う」

 とりあえず、ちゃんと喋れる。


 坊主のお経は終わり、今度は女のナレーションの声がする。

 斎場の進行係をやっている、知り合いの、美人の人妻をちらと思い浮

かべた。


 まてよ。

 斎場って事は?

 セレモニーが済んだら、火葬になるじゃないか!

 伯母の骨もその亭主の骨もつまんだばっかりじゃないか!

 だしぬけに恐怖にかられた。

 だから、ありったけの声を振り絞って、中から棺を叩いた。


「ギャオー! 出してくれー!」

 ──ドンドンドンドン!


 そりゃパニックだった。

 死んだ伯母とは別の、元々心臓の悪かった伯母などは、そのまま寝た

きりになってしまった程だ。

 当然、葬式は取りやめとなり、家に帰った。

 翌日病院へ行った。

 骨折も無く、打撲もそんなに酷くはない。

 つまり身体の色が悪いので、そんなに目立たない。第一、痛くもない。

 そこで内科へ行った。


 診察室の中、パソコンを覗きながら、困り顔の若い医者が言った。

「ま、診るまでもありませんが……」


 胸を大きくはだけ、事さら突き出しながら尋ねた。

「つまり、異常なしって事ですか?」


 医者はおずおずと聴診器を宛てがって、ため息を洩らした。

「はあ。……やっぱりね」


「何か異常でも?」

 と聞いた。当然だ。


「ええ。まあ。最近多いんですが、つまり、心臓、停止してますよ。動いて

ないんです」

 と困り顔の医者。


「え? じゃ私は」

 と言いかけると、


「はい。医学的には、死亡してますね。生物学的にも」

 と答えた。


「あははは。そんな筈は……現にこうして喋ってるって事は、生きてるっ

て事じゃないんですか?」

 と腕をぶんぶんブン回して見せた。


「ええまあ。活動してる事は確かです。でも、新陳代謝してない。まるっ

きり、してないんです」

 と医者。


「心臓、ゆっくり動いてるんじゃないですか? うんとゆっくり」

 と指揮者のような手振りで言った。


「ええ。調べました。あなただけじゃないんです。最近多いんです。心臓、

完全に止まってますよ」

 と医者。


「分かりました。つまり死んでるって事ですね。ところで、死後、解剖し

たら脳みそが無かったって人が、実際にいたそうですな」


「脳検査、してみますか?」

 と医者。


「いや、その人、生前は何ら問題なく生活してらっしゃったとか……」


「ウソに決まってます」

 と、にべもない医者。


「しかし、ほら、心臓止まってても、ちゃんとこうして、生きている」


「はいはい。そーなりますね。きっと、そういう人は、医者いらずって事

なんでしょうね」

 と医者。


「いや、そういう意味じゃなくて……」


「とにかく、役所に行く事をお勧めしてるんですけど、……どうせ行きま

せんよね」

 と、ニヤつきながら医者。


「役所って? ……あ、そうか。年金の受給資格に関わってくるんだな」


 デスクの上の小鏡に映った自分の顔が、見事な土気色だ。


「ええ。死亡届を出すと、受給資格が無くなります」

 と医者が真面目な顔をして言った。


「そーですか。大事な事を、どうも……お世話様」

 と言い残し病院を出た。







 どうにも、家に帰る気がしない。

 むしょうにガツ刺しが食いたくなった。

 いや、レバ刺しの方がいい。

 そこでホルモン屋へ行くと、まだ昼下がりだというのに、何人もの先客

がいた。

 土気色のオヤジばかりじゃないか。


「生肉が食いたくなるって事は、やっぱ、アレですかね?」

 と土気色のオヤジが喋っている。


「日本じゃあまり、なじみがないっすよね」

 と土気色の、こいつは若オヤジだ。


 ストレートの焼酎を注文して、カウンターの上の梅エキスを垂らし、一気

に飲んだ。

「ふいー! 効くう!」

 と思わず声が出た。


「どーですかあ? ご同輩」

 と隣席のオヤジが話しかけてきた。


「あなたもやっぱり心臓が?」

 と尋ねると、


「ハイ。この連中はみんな、止まってるんですよ」

 と答えた。


 ──なんだか安心した。


 と言いたいところだが、実は違っていた。

 何もかもが、本当にどーでもいいって感じなのだ。

 心配もないし安心もない。

 生活が、仕事が、世間が、世界が、世の中に対する興味が、まるっきり

失せている。


 だが、妙に心地良い。

 この感覚は、そうだ。生者とは全く違う。

 やはり死人の感覚なのだろう。


「まあ、どうせ、遅かれ早かれボケちゃうんだから、ねえ……」

 と隣席のゾンビ。


「腐ってきた。きっと凄く臭い筈だけど、臭いを、まるっきり感じないんだ」

 と鼻が欠けているゾンビ。


「手足がな。いつまで、どの程度、動けるのかな?」

 とのっぽのゾンビ。


「座って飲んでばっかいるからだよ」

 と目玉をぶら下げたゾンビ。


「人間でも襲えって言うの?」

 と、おばちゃんゾンビは化粧が凄い。

 ソフトチョコレートをメレンゲで固めた感じだ。


「食足りて礼節を知るって本当だな。馬刺し食っときゃ、欲求は満たされ

るって事」

 と物知り顔の禿げゾンビ。


「そうだ。生肉は食いたいんだけど、どうしても人間と結びつかない。血が

したたるレア肉で充分なんだ」

 と隣席のゾンビ。


「腐っても鯛。なんちゃって」

 と私。


 やがて酩酊したゾンビが一匹、ふらふらと店の外へ出た。

 店の前の信号は暗いまま。

 計画停電の為、どこもかしこもこんな調子だ。

 勢い良く走ってきたのが、若い女が運転するアウディ。


 ──ドン


 とばかりに跳ね飛ばされた。

 跳ねられたショックで酩酊ゾンビは覚醒した。

 空中でムーンサルトのように宙返りしながら、ポーズをとっている。


「ゲンちゃん凄いわ。流石は元体操選手」

 と、おばちゃんゾンビが立ち上がった。


「いよ! ゾンビがくるりと輪を描いた」

 と、禿げゾンビが言った。







                     おしまい。





「え? これで終わりでありんすか?」

 と参照太夫が言った。


「うん。いい出来だ」

 と私。


 タバコを取り出して咥え、火をつけた。


「ロッカ先生、ほっぺにあいた穴、だんだん大きくなってきましたね」


「そっか? じゃ、この穴からドーナツ煙、出してみっか?」


「やめてくんなまし」


「ちゃんと見てろよ。それ、ぽっぽっぽっぽっ」


 〜〜◎ 〜〜◎ 〜〜◎ 〜〜◎


「キモチワルイでありんす」

 と参照太夫が言った。







                    ほんとにおしまい



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